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クロスボックスのタグデザイン
クロスボックスのタグデザイン_b0091802_4563952.jpg
名古屋でこのクロスボックスの販売をしていただいている方から、『お客さんが、これをどう使っていいのかわからないようで、使い方を説明して納得して下さると、買っていただける』とお聞きし、それでは目で見て用途がすぐわかるように、タグを作りましょう ということになった。フィンランド産のウールを使って手作りで作られたクロスボックスは、アクセサリーや時計、鍵入れとして使っていただけるようにデザインしている。今日はこのタグのデザインで一日が終わった。



クロスボックスのタグデザイン_b0091802_572434.jpg
リング状のタグは、表に名前と鍵の写真をいれ、内側 下にアクセサリー類の写真を配している。これで用途が何かわかる‥‥はず?タグの制作では、何度もプリントし、微調整を繰り返した。

鍵の写真をどうしようか迷っていたとき、この鍵があることを思い出した。
思い出の鍵だ。

2001年に、ラップランド大学のインダストリアルデザイン科に私の留学が決まった年、そこには交換留学生としてチェコやフランス、ドイツからも留学生が来ていた。私は28歳で、彼らはまだ20歳そこそこ、一旦社会人になっていた私と比べると彼らはとても若い。その中で、私のほとんどできない英語を使って彼らに加わっていくのには時間がかかった。

友達の作り方がわからない。日本で仕事をしていると、忙しくて、会社にだけいるようになり、友達がいなくても時間を過ごして、生きていけるようになっていた。というのは言い訳だ。昔からかいつからか、私は自分から友達の家を訪ねたり誘ったりすることをしない。本当は寂しくても。

日本にいるのと同じように、私はラップランド大学でも一人残って、とても長い時間制作をした。それが楽しかったし、誰かといるより自分らしくいられた。そんな夜に、Petrが一人で教室に現れた。

Petrはチェコ人で、背が高いアル・パチーノみたいだ(もちろん若い頃の)。彼は美術教育の学生だけど、留学中のラップランド大学では、興味があればインダストリアルデザインの授業も取っていた。昼にパッケージデザインの授業があり、そのグループ課題のために、やりたいことがあって来たという。いつも他の留学生とふざけあってる彼が、夜に一人で作業のために現れて、私は少しあせってしまった。

私達は何か話したろうか。覚えていない。彼にはデザインに関する技術や知識はほとんどなかったから、グループでの作業は多少なりともきついものがあったはずだ。彼に使えるソフトウェアも限られている。彼はその夜、彼にできること、筆を使って∞のマークを紙に山ほど描いていた。

帰り支度をして、帰ろうとしたPetrが足をとめて、あとで僕の部屋にこないか、他にYohannも来るし、夕食をご馳走するよ、と声をかけてくれた。正直、私は彼の英語が半分くらい理解できなかったし、その頃はまだ英語で話しかけられたとたん身体がすくんでしまっていたから、どう返事をしたものか、パニックになってしまった。私はWhy?と聞き返していた。彼はWhy? I don't know!と困った顔をした。そりゃそうだ。せっかくの好意を。

私達留学生は、大学から離れた森の入り口にある学生寮に、まとめて詰められていた。一つのフラットに個室4部屋と共同のキッチン、バスルームが2つ。それをフィンランド人の学生も含めて4人でシェアする。多国籍の学生が、国から離れて一つの建物で集団生活をするというのは、考えるだけでも楽しいが、そのころの私はひたすら臆病で、自分のフラットの友人との交流くらいしかなかったから、他の部屋がどんな感じなのか全然知らなかった。

私が彼の部屋にお邪魔した時、Petrはカーテンをはずしてそれをテーブルにかけ、小さな魚をたくさん、カレーペーストで何やかやした料理をオーブンから取り出した。Yohannはすでにテーブルについて、そのカーテンテーブルクロスを首元にさしこんで食べる準備ができていた。Yohannはフランス人の男の子で、スケッチを山のように描いてデザインする人だ。私はなんだか緊張して間がもたなかったけど、誘ってくれて、胸のあたりがすごくあったかくなっていた。初めて彼らと一緒に笑った夜だった。

次の日、お礼に、と思って、おにぎりをもってPetrとYohannを訪ねた。ドアが開けられると、彼らの部屋の玄関には靴があふれるほどあって、たくさんの人が集まっていた。

顔がこわばってしまった。私は一人でばかりいたけど、この部屋ではみんなが集まっていて、遊びの計画があったり、食事をみんなで作ったりしていて、それが普通だったんだって、知らなかった。彼らが手招きする。やっぱりいい、と言って帰ろうとしたけど、Yohannが追いかけてくる。臭いのか、僕らの部屋が臭いから入るのが嫌なのか、と訊く。私は笑って、入って行った。独りだと気づくのは、集団にいる時なんだ。

寂しいくせに入っていけない私を知ってか知らずか、Petrはその後、みんなでクラブに行くとか、パーティーがあるとかいう情報があると、一緒に来るかと誘ってくれるようになった。そうして私とPetrとYohannはだんだん3人で行動することが増えていった。私には思いもよらなかったことだけど、彼らは日本に、日本のデザインにすごく興味を持っていて、私とそれについて話すことを心待ちにしていた。私の作るモデルや図面を見て、少し尊敬もしてくれているようだった。

彼らの後をついて歩くのは面白かった。そりに2人3人と折り重なったまま滑り降り、森に向かってジャンプしたり、自転車で雪に向かって飛び込んだり、やれといわれればやってみた。大人になってからもう10年以上体験せず忘れていたスピードとか衝撃の体感。それに彼らの聴く音楽の世界を知るのも新鮮だった。私は変わった。英語ができなくても、他に何か言い訳を考えられたとしても、もう自分を出すのを、怖がらなくなった。どうやって友達をつくるのか、Petrに教わっていたのだった。

彼らの留学期間は終わりに近づいていた。時間を惜しんで、夜通しPetrと話し込む日が続いた。というか、まだ彼の話を聴くので精一杯だったけど。そんな夜のひとつだったと思う。Petrの持つ鍵がかわいくて、そう言うと、あげる、というのだ。彼の通うプラハの、学校のロッカーの鍵か何かだ。開けられなくなる。でも、大丈夫、簡単に開けてもらえるから、といって、その鍵は私のものになった。

Petrが帰国していった。子供の頃、隣のみよちゃんが引っ越しして泣いたときみたいに、滅茶苦茶に泣いたし、いない、という空虚は毎朝私を包んだ。思い切り自転車をこいだり、何かぎりぎりまでやらないと抑えられない、叫びたいような衝動があって、抑えられないこともあった。

彼は本をよく読んでいたけど、彼から届くメールは、積もりたての雪みたいな繊細な文章で、それこそ本を読んでいるようで、私は腹をすかせた犬のように、それらをむさぼり読んだ。魅惑的な引力をもっていた。

今でもやっぱり、自分を出すのは怖い。だけど、Petrや他の子たちとの、体当たりみたいな自分の解放は、私の生き方をずいぶん楽にしてくれた。受け入れてもらえるんだって、知るのに、私はここまで来る必要があったのだ。

連絡が途絶えて、何年になるか。時々、またあの世界を泳ぐことができないかと思う。

鍵を見ながら考えていた。今でも繋がることができるだろうか。
by aikafeltworks | 2007-01-24 09:17 | 私がつくっているもの
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浦田愛香 フェルトワーク from Finland
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