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ものづくりマネジメント勉強会#3 ケーススタディ: FREITAG
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さて、今回はデザイナーが商品の生産・販売も手がけ、世界的に成功したユニークな例として、スイスに拠点を置くFREITAGが歩んできた道のりを見てみたいと思います。

FREITAGは兄Markus Freitagと弟Daniel Freitag兄弟が1993年にチューリッヒに設立した、使用されなくなったトラックの幌、車のシートベルト、自転車のインナーチューブを再利用して作るバッグ類のブランドで、現在では40を超えるコレクションを持ち、ベルリン、ハンブルグ、ケルン、ダヴォス、チューリッヒにフラッグシップショップを構え、商品はヨーロッパ、アメリカ、日本など世界中のショップで販売され、80名近くのスタッフを抱える会社に成長しています。

Freitag兄弟が、バイカーが使う、雨に強いメッセンジャーバッグを制作しようと思うにいたったのは、彼ら自身のニードがあったからで、兄Markusは空間デザイン(ビジュアルコミュニケーション)を学んだあと商業ディスプレイを手がけていたし、弟Danielはグラフィックデザイナーで、二人ともバッグの試作品を作るデザインの素養がありました。ロゴ、タグ、パッケージのデザインはDanielの意匠で、現在でもFREITAGの商品のデザインは彼ら自身の手によってなされています。しかし生活の中にあるアイデアを実際に形として生み出すために、ゼロから生産のシステムを立ち上げて動かし、成功するにいたるのに何よりも必要だったのは、二人の並外れた行動力と忍耐力といえると私は思います。

デザイン自体かっこいいけれど、私が彼らに強く興味を惹かれる点は

●彼らがゼロから(できることから)スタートしたこと
●基本的な材料をすべてリサイクルでまかなうというアイデア
●その材料を集めるためのマーケットがないので、自ら材料集めのシステムをつくっていること
●リサイクルだから安い、という先入観に屈せずリサイクルにかかるコストをきちんと価格に反映し、最初から高価格(適正価格)を貫いたこと
●高価格ゆえのニッチ市場で、カスタマーを納得させる商品のストーリーをきちんと伝え、そこからずっとぶれずにいること

です。まずは、始まりの1993年から2001年まで、Freitag兄弟がどのようにしてブランドを立ち上げていったのか時系列にそって抜粋し、その中でさらに掘り下げたいテーマについて書いていきます。



FREITAG 略歴

●1993年夏 トラックの幌を使った最初のバッグが誕生
●1993年秋 500ドルで中古ミシンを買う。これが最初の投資。
●1994年春 初のメディア露出
●1994年春 チューリッヒのショップで初のバッグ販売
●1994年3月 初のプロモーション、セールスイベント

●1994年 ショップから販売を求める初めてのコンタクト。
●1995年11月 Freitag retour Bros. 設立。
●1995年12月 初の外国へのプロモーション
●1996年 ウェブサイトを立ち上げる。
●1996年 初の従業員雇用

●1996年 二つの縫製業者で初の外注生産。うち一つは障害者を雇用する業者。
●1997年 およそ200平米のワークショップを生産と在庫管理のためレント。
●1997年 初のトレードショウ参加(ロンドン)
●1997年 Freitag bag がSwiss Design Award を受賞。
●1997年 初の海外輸出 東京、サンフランシスコ、ニューヨークへ。

●1997年 初のフェイクが発売される。
●1998年 初めて外国(ハンブルグ)から大量の幌(10トン)が入荷
●1998年 合資会社 Freitag lab. Inc.に。
●1999年3月 550㎡の工場をチューリッヒに購入。
●1999年12月 初のフラッグシップストアをスイスのダヴォスにオープン。

●2000年 ウェブショップオープン。
●2001年 ウェブ上でカスタムバッグをオーダー可能に。(F-cut)

トラックの幌を使った最初のバッグが誕生
    最初のバッグはトラック会社から譲ってもらった幌を、Markusが自転車で荷台を牽いてアパートへ運び、バスタブで汚れを洗い、ミシンを使って手作りで作った。当時Freitag兄弟はもう一人のルームメイトと共に、チューリッヒを二分する、ドイツのハンブルグとイタリアのパレルモを結ぶ幹線道路脇のアパートをシェアしていた。以前からその立地がら、少なからず振動と騒音に悩まされていたが、その後兄弟がアパートで制作を始めたため、ルームメイトはその悪臭(トラックの幌はポリ塩化ビニルでできている)とミシンの騒音に悩まされたと思い返している。
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何をつくるか。何でつくるか。

それを考えることにデザイナーの仕事の醍醐味がありますね。バッグというのは、万人が所有し、一人幾つあっても良く、人目にも触れるもの。機能があって、それでいてデザインに多少の遊びも許される、取り組むのに楽しい要素がたくさんあります。

彼らが目をつけたのは素材──トラックの幌、車のシートベルト、自転車のインナーチューブ。これらを組み合わせて世界に一つしかない、へヴィードューティーのメッセンジャーバッグを作る。リサイクルというテーマは自転車愛好家にとってぴったりくるものだったし、トラックの幌自体、旅というライフスタイルをその歴史に持っていて、想像力をかきたてます。

前回のポストで、デザイナーの寳角さんのコメントに『何を、何で作るか』、についての言及がありました。

    残るは生産とアイデアとセンス。
    生産は大きな生産設備を必要としない新しい素材でハンドメイドのようなもの
    (ここが大企業にまねされないポイント)
    そして、造り方を知っているからこそ生まれるアイデア。
    最後に従来の経営者には絶対に手に入らないセンス。


FREITAGの場合、バッグの形自体は大企業にコピーされる可能性があり、事実、スイス国内にとどまらずドイツなどでも安いコピーが出回りましたが、大企業がマネできなかったのは、この素材の調達です。素材をリサイクルするには、大変な手間ひまがかかります。まず回収、不要な部品の選別・除去・廃棄、洗浄。コストもかかります。回収にかかる輸送費、材料をストックしておくスペースの確保、そして人件費。どう考えても新しい素材を買った方が早くて安いのです。

おまけにFREITAGのバッグは、幌を端から端まで使いきってできるわけではありません。幌のどの部分を切り取るかによってデザインが決定されるので、一つ一つカッティングデザイナーの目によってカッティングの配置が決定されなければなりません。結果、幌の多くのパートは使用されないので、その分無駄がでます。その余りをなんとかしなければならなったからこそ、バッグだけでなくほかに多くの小さなアクセサリー類(財布、サッカーボールなど)のデザイン展開が必要だったのでしょう。

私もフェルトスリッパにリサイクルのレザーを使っていますが、これを手に入れるのに町のフリーマーケットへ出かけ、使えそうなものを時間をかけて買ってきます。レザージャケットは小さく裁断されたレザーを縫い合わせて作られているので、一枚でスリッパの底のパターンがとれないこともあり、多くの無駄がでてしまいます。今のところ、全ての余りを保管していますが、さらにこれをどう利用するか、頭の痛いところです。時々忙しすぎる時は、レザーの新しい素材をオーダーしたい誘惑にかられることもあります(笑)。

いずれにせよ、FREITAGはこの素材選びの時点で、大企業との差別化ができていたのだと思います。そして、リサイクルゆえ、高価格を維持せねばならず、また大量生産もできないので、ニッチ市場がターゲットになることが自然に決まったといえます。

ニッチといえば、FREITAGの生まれたスイスのお家芸ですね。これについてと、またメディア露出以降のFREITAGの歩みについても、次回以降に取り上げていきたいと思います。

『大企業にまねのできないこと』について、他にどんなケースが考えられるか、ご意見をいただけると嬉しいです。コメント、メール(info(at)aikafeltworks.com) をお待ちしています。
ではまた!

- "FREITAG INDIVIDUAL RECYCLED FREEWAY BAGS", LARS MÜLLER PUBLISHERS
- FREITAG日本語オフィシャルサイトhttp://www.freitag.ch/japan/
- FREITAGオフィシャルウェブサイトhttp://www.freitag.ch
を参考にしました

画像:"FREITAG INDIVIDUAL RECYCLED FREEWAY BAGS" Lars Müller Publishers, 2001
by aikafeltworks | 2011-01-25 19:37 | 物作りマネジメント勉強会
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